1人の女性を救うために
会ったこともない。
見たこともない。
聞いたこともない。
最初は迷惑メールだと思った。
それは、1件のメールから始まった。
2005年11月9日19時20分、
私のメールボックスに1件のメールが届いた。
■はじめまして
見ず知らずの者からの突然のメールお許しください。
高1と中3の娘を持つシングルママなのですが、
もう肝不全の状態で(輸血肝炎による)
妹がドナーになってくれるとのことで
20日から食道静脈瘤の治療で入院せねばならず、
実は生活保護のことを調べようと検索したページに
もし肝移植をせず半年か1年で死ぬ事になっても もし何か手立てがあれば教えていただきたいのですが・・・ 世の中そんなに甘くはないでしょうかね? |
私のメールボックスには1日数百件という
迷惑メールが届く。
すべてゴミ箱行きだ。
もちろん、このメールもゴミ箱行きだ。
その日は、メール本文に目を通したが、
詐欺まがいの新しい手口だと思った。
メールは捨てた。
しかし、次の日の朝、8時48分、
2通目のメールが届いた。
昨日のヘビーなメールのKです。
かなり路頭に迷ってる感じのメールを受け取り
確かに私は重病でもう切羽詰った人間なのですが
日大板橋病院の主治医の先生もまだ50才だしね、
私のここ2年くらいネットビジネスをかじって とても貧乏ですが少しくらいの元手は払えます。 でも時間は全然ありません。
病院へはノートパソコンと
教えていただけるノウハウですぐにビジネスが ヨロシクオネガイシマス。 |
タイトルが私宛だった。
間違いなく前の日にきたメールの続きだった。
私は迷った。
これは悪戯なのだろうか?
それとも・・・?
状況は切羽詰っているようだ。
しかし、これが悪戯ともいいきれない。
特に、一番最後の「ヨロシクオネガイシマス」
普通はカタカナで書かないような気がする。
年齢は50才らしい。
私はとりあえず返信することにした。
ご連絡ありがとうございます。
私の所には一日に数百件もの迷惑メールが届くため、 申し訳ありません。
しかしながら、こちらとしては正直信用できるだけの、 他の迷惑メールと同様にしか受け取れないのも事実です。
ですが、もしそうでなかったらと考えると、
ここからが、ビジネスの話しですが、
つらいかもしれませんが、
できれば、私がホームページ上で書いているように、 今のところはこれ以上は言えません。 |
これが10日の朝10時くらいである。
返信はその日の昼にきた。
思ったよりも早かった。
誰かに話したかったのかもしれなかった。
■長文乱文お許しください。
東京北区**(***)にすむ50歳のシングルマザーです。
20歳台の輸血によるC型肝炎の治療のため
2回のインターフェロン治療で完治ならず、
私は父も音楽家で19歳より25歳までスタジオミュージシャン
(ちなみにソウルミュージックが好きです。グラディスナイト
パソコンは家に3台とノートパソコン京ぽん2機持っていますが
お金で全てが解決するわけでもないと思いますが、
学習が無いといわれても目の前にある希望、
唯一生き延びる道である生体肝移植で肝臓を提供してくれる
自分でいうのもなんですが責任感だけは人並み以上にある 身体は病気でも心は比較的元気な奴です。 なにか私の人生の打開策はありませんか?
文章をまとめる力が無くいま、取り急ぎ思いつくまま書いたので、 お時間取らせて恐縮です。 *** |
このようなメールをもらい、
私はどうしたらいいのか?
私は確かにビジネスの方法を知っている。
しかし、体が弱っているときに、
はたしてそれができるかどうか・・・。
過去の苦い経験が頭をよぎった。
同じように私に助けを求めてきた人が昔いたのだ。
障害者だった。
私は手厚くサポートしながら、
私のビジネスを行った。
最初はうまくいっているように思えた。
ところが、
体調をくずし、
続きは話したくはない。
そういうことは2度と嫌だった。
だから、私の方法を実行してもらうことは、
どうしてもためらわれた。
何かできることはないのか。
もしかしたら、悪戯かもしれないが、
これが本当なら、大変なことだ。
私も辛い思いはしているが、
まだ命はある。
それ以上のことをKさんは感じている。
なかなか返事は出せなかった。
メールの送信記録には今でも私が送ったメールが残っている。
力になります。 でも、方法を少し考えさせて下さい。 |
返事を送ったのは、
メールをもらってから、
3日後のことだった。
そして返事が来た。
■おはようございます。
お世辞ではなくメールの中に
叉さらに私の状況を踏まえて引き受けてくださるか
無責任な人とのかかわり方はできないと思ってますし、
今の私にとっては辛いといって同苦してくださった
もし縁あって私にできる取り組み<打開策>を
情報アドバイス料、マージンなどはできる限り それでは良いお返事を気長にお待ちしています。 有り難うございました。 *** |
それから、打開策を私は考え続けた。
悩んだあげく、
思いついたのは、
私の売り上げの一部をKさんにあげることだった。
ただ、それでは私にメリットがない。
そこで、その売り上げに貢献してもらうことにした。
私の戦略はこうだ。
今までは私は自分の教材を販売することでお金を得てきた。
そこに、Kさんの記事を載せる。
そのおかげで、売り上げが伸びるかもしれない。
つまり募金のようなものだ。
世の中にはたくさんのKさんのような人がいるだろう。
不公平な気もした。
しかし、Kさんは見ず知らずの私に
助けを求めてきたのだ。
私以外ではなく、この私にだ。
それが、Kさんの最後の願いなのだ。
わらをも掴むのわらなのだ。
それが、本当にわらであったかどうかは、
Kさん自身が思うことであろう。
実際は売り上げはそれほど伸びたようには思えなかったが、
それでもよかった。
私には金銭的なメリットはないように今も思う。
しかし、そこにはお金でははかれない何かがあった。
私のできることはそれだけだ。
そして、そのことを伝え、返事がきた。
■おはようございます。 ありがとうございます。
私にとってストレートかつダイナミックな応援 以前から思っていたことがあります。
子育てにひと区切りがつき病気と闘う
不安定な生活と思春期の娘たちとの葛藤に疲れて忘れていたのに、
パソコンを通して知り合あって実際に友人になった人を振り返ると 幾万もの通リ過ぎる情報の中に、 知恵となるものを求めるのとは別の、 光みたいなものを感じるのはひとの六感によるものだと思います。
変なことを言いましたがお許しください。 縁をつないでくださって感謝します。 *** |
私は正直嬉しかった。
このような温かいメールをもらったことに。
だが正直辛かった。
まだ何もできていなかったから。
■***です。 今日は一日涙にくれる日です。
先月24日から肝臓の応急処置と検査のため
昨日生体肝移植についてのカンファレンスがあり
そこにあなたのメールをメールボックスにみつけて
このメールはPHS携帯で書いていてできれば私の近況、 私のことを気にかけてくださって本とにありがとうございます。 |
私はただ祈ることしかできなかった。
売上げの報告をするしか
そのときの私はできなかった。
■心を表す言葉が見つかりません。 お返事遅くなりました。 有難すぎて返事が書けないでいました。
実は入院中に二転三転して、結局進行が早く
事情を詳しく話しますと昨年まではこの手術は
また手術が成功しても免疫抑制剤を一生服用し
今回の入院は食道静脈瘤を焼いて出血を抑える治療でしたが でもいろいろな勇気付けがあって
誰もがもらえるチャンスではないことでもあり、
ひとつはいつもはやさしく気の弱い妹が
本当にうれしくこんな人たちの気持ちに支えられて命を繋ぐ、
人を得て時を得て蘇生したら何か面白いことが待っていて、 背中を押してくださって本当に、 本当に、本当にありがとうございます。 クリスマス一時帰宅の*** |
今でも思う。
本当に何もできなかったのだろうかと。
■ごぶさたしてすみません。
2月の15日の手術の予定が3月4日に延期となり、
今次女の進学が決まり奨学金の手続きで
免疫との戦いが始まる手術後の想像に滅いってはいますが、 女性の生体肝移植は割合が低いそうです。
いろいろやらねばならないことも先送りで、 励ましはお金ももちろん大切だけど
応援してくださる気持ちがどんなにすごいパワーを持つか 本とに本とにありがとうございます。 勇気をもらって病院に戻ります。
この次は良い知らせを自分で送れるように お元気でお過ごしください。。 私を応援してくださった方にも幸せと 健康が訪れますように・・・ ***より感謝を込めて |
それが最後のメールだった。
涙があふれた。
人とは何と無力なものなのだろう。
目の前の1人も救えないで
生きる意味などあるのだろうか?
彼女の最後の救いの声は
私が生きる目的を考え始めた
最初のきっかけとなった
『何のために生きているのか?』
あなたの大切な人の
力になれる力を
どうかつけてほしい
もし目の前に困っている人がいたら、
今、目の前にいる人に手を差し伸べることができる力を。
力をつけてほしい。
もし今、あなた自身がつらい状況にあるなら。
その状況を私やそばにいる誰かと一緒に乗り越えて、
同じように困っている人を助けることができる
力を身につけてほしい。
私はとても弱い人間だ。
できると思っていたことはいつもできず。
本当に大事な人には何もできない。
だからもっと成長したいと思う。
困っていたら「大丈夫だよ」と声をかけてくれる
そんな優しい世界になってほしいから。
きっとあなたの困難を乗り越えた先に。
あなたの生きる意味が見つかるから。
一緒にがんばっていきましょう。
DAI